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最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ツ)50号 判決

東京都港区南青山五丁目一番一〇-一一〇五号

上告人

中松義郎

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行ソ)第三号再審請求事件について、同裁判所が平成五年一二月二一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

本件再審請求は理由がないとした原審の判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

(平成六年(行ツ)第五〇号 上告人 中松義郎)

上告人の上告理由

1.原告は平成5年8月17日付再審事由書に於て 新らたな証據として甲第9ないし11号証を提出したが、平成5年(行ソ)第3号再審請求事件の判決(以下「本判決」という)はこれら甲号証についてなんら判断されておらず、又その理由も示されず、従って審理がなされていない。

再審の対象となった原判決では、本発明のインタライナを繊維のほつれだけフロッピーの窓より内側に設けることは、引用例に示されていないがインタライナはほつれが出ることから自明と述べている。しかし甲第9ないし11号証は自明ではない証據である、即ち甲第9号証のセパレートシート(インタライナー)は、繊維をからみあわせて作成した不織布ではあるが、その繊維が「脱落することが抑制」(明細書3頁4行ないし5行)されたものであることが記載されており、甲第10号証には、繊維をからみあわせた不織布で、「セパレートシート」として使用すれば、「毛羽発生が少ない」(明細書3頁右欄20行)ものが記載され、すなわちいづれもほつれが少ないものがあることが記載されている。

また、甲第11号証には、磁気カードのクリーナとして使用されるものとして、「合成皮革あるいはフェルト材などの可撓性を有し」(明細書2頁18行ないし19行)、「塵芥などの(略)クリーニング能力が高い」(明細書4頁3行ないし4行)不織布ではないもので「セパレートシート」として使用し得るものが記載されている。

さらに、乙第1号証では前記のように、「セパレートシート」は「繊維でもよい」(繊維以外のものもある)と記載されていることからも、「セパレートシート」は、繊維がほつれ易い不織布に限定されるものではなく、これは甲第9号ないし第11号証に示されるごとき繊維のほつれが出ない、あるいは繊維以外のセパレートシート(インタライナー)も使用されうることが明らかである。

なお、本件のセパレートシートが磁気ディスクのクリーニングに関するものであるのに対して、甲第11号証のものは磁気カードのクリーニングに関するものであるが、磁気記憶媒体のクリーニングという点で全く同一であるので、磁気記録媒体に係る当業者であれば甲第11号証に示すクリーニング材料を甲第6号証のごとき磁気ディスクのクリーニングに利用することはきわめて容易に為し得ることである。

従って原判決において前記のごとく甲第6号証のセパレートシートが材質についてなんら記載されていないのに、これはほつれ易い不織布であると想定して「本願発明と引用例6記載の考案とでインタライナー(セパレートシート)の配置形状について格別の差異はないものである。」(判決33頁8行ないし10行)とされたのは誤りでありこれが本判決の結論に影響を及ぼしたことが明らかである。

2.本判決における再審事由(二)について、原告は平成5年11月4日付準備書面において新らたな作用効果を陳述したにもかかわらず、本判決はこの作用効果について判断されておらず、又その理由も示されず、従って審理がなされていない。

原判決においては本発明のヘッド挿入孔とその近くのフロッピー外縁との間にインタライナーが存在しない構成は格別に意味がないと述べている。しかしその作用効果について再記すれば、本願発明を例示する甲第5号証の図面において、ジャケット(1)(フロッピーディスク(1)と同じ)内で高速回転するディスク(11)の外縁は磁気ヘッド挿入孔(6)の外側の狭いジャケット部分の内面に接している。この細いジャケット部分のインタライナは特に細い巾であるので、高速回転ディスクの最高速縁部が接して、繊維が容易に大きくほつれ易く、エラーの原因となる。

加うるに、高速回転ディスクの表面には遠心力により、ディスク中心から外縁方向への空気流が生じ、磁気ヘッド挿入孔とその近くのフロッピーディスク外縁との間にインタライナーがあると、その空気流が撹乱されて磁気ヘッド挿入孔から円滑に排出されない。そのため薄くて軽いディスクは回転の平坦性を保ち得ず、磁気ヘッドとのコンタクトが乱れてドロップアウトなどのエラーの原因となる。

さらに、細いインタライナー部分はその形状から、製造の際に切れてトラブルの原因となり易いものである。

本発明は以上の各欠点を除いて、エラーを著しく減少せしめるという著効を有するものであり、これは特許とされるべき構成である。

3.以上のように本判決においては、その判決に重大な影響を及ぼす各事項についての判断がなされておらず、これが本判決に影響を及ぼしたことが明らかであるので上告致します。

以上

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